OSJ ONTAKE100OSJ ONTAKE100

エントリーリスト・リザルト

延々と林道が続く
タフなコース

 過酷なレースの舞台は、霊峰御嶽山(標高3067m)の麓に広がる長野県木曽郡王滝村。村の名前の由来は、平安の時代、後白河法皇が病にかかり、御嶽山に祈祷したところ、全快されたので、法皇より「王」の一文字をもらうことが許された。これに加えて、村内に無数の滝があることから、王滝の名がついたという。
 大自然と満天の星に包まれた村の人口は約630名。だが、毎年、海の日を含む3連休に、その人数の倍近くのランナーが村に集結する。それが「OSJ ONTAKE100」、OSJトレイルランニングシリーズの中でも特に人気の高いレースだ。今年は、関東地方などが梅雨明けした翌日の7月19日、20日の2日間にわたって開催された。
 レースカテゴリーは、100マイル(約157km)と100km(約102km)の2種類。大雪のため土砂崩れがあり、従来のコースに変更があったため、若干距離が短く、さらにロード箇所も増えたが、それでもどこまでも続く林道を走るコースに変わりはない。途中、ふかふかの極上のトレイルも、スリル満点のテクニカルな山道もないけれど、逆に黙々と走ることができる、走力が求められるコースが魅力で、このレースを申し込むという人も少なくない。
 コースは、100マイルはステージ1の上松を2周した後、ステージ2の滝越を1周する。一方100kmは、ステージ1、ステージ2をそれぞれ1周ずつする。そして、100kmを14時間以内で完走したランナーのみが、100マイルのレースにエントリーできる。14時間以内というのもなかなかハードで、この壁が超えられず、100kmレースに何度か挑戦しているという人も少なからずいる。いずれにしても、100マイル、100kmともにタフなレースであることには変わりはないのだ。

ホタルの光と
天の川

 7月19日、快晴。3連休の初日ということもあって、道路は大渋滞。余裕を持って会場入りしたいところだ。
 この日午後1時からスタート・フィニッシュ地点である松原スポーツ公園で選手受付が始まった。午後7時から7時半までは同じく松原スポーツ公園で100マイルレースの荷物預かり。この、夜の松原スポーツ公園の雰囲気がすごくいい。夜ということもあって、テンション高めのランナーたちが三々五々、集まってくるのだ。空には満天の星。ランナーたちを見守ってくれる。
 まずは午後8時に100マイルレースがスタート。100マイル出走者は161名。ヘッドライトをつけて走るランナーたちは、まるでホタルのようだ。100マイルはスタート直後からランナーが分散。スピードも速く、先頭のランナーは先導車を追い越すような勢い。トレイル入口まで約6kmの舗装路が続き、橋を渡り、その後、右折してトレイルに入っていく。
 夜中0時には100kmがスタート。100km出走者は1084名というだけあって、その数に圧倒される。ヘッドライトをつけたランナーの長い列はまるで天の川のよう。この風景を見るだけでも、王滝に行く価値がある。


100マイル優勝者は将棋部出身!
100km女子に新生現る!

 選手たちがスタートした後の、静寂に包まれた深夜の松原スポーツ公園が再び活気づいたのは、100マイルの選手がステージ1の1周目を終えて戻ってきた時だ。トップで入ってきたのは、案の定、最初から飛ばしていたゼッケンナンバー61番の野坂伸吾選手。2024年の100kmレースで総合2位だった選手だ。ご本人曰く、「テンションが上がって1周目は飛ばし過ぎたので、2周目はイーブンでいきます」と一言。2位は、2024年の100km優勝、ゼッケンナンバー60番の小野寺祐太選手、3位はゼッケンナンバー164番の志村史雄選手。2位、3位の選手とも「1位は速すぎ」と話していた。
 一方、100kmをトップで入ってきたのは、ゼッケンナンバー1072番の横内佑太朗選手。しっかりエネルギー補給をしてステージ2へと向かった。
 この松原スポーツ公園でデポジットバッグを受け取り、補給する。デポジットバッグの中身は人それぞれ。エナジージェルなどの補給食、スポーツドリンク、替えのシューズなどなど。補給食に関しては、ふだん、自分が食べ慣れているものを入れるといいだろう。
 午前4時半過ぎ、空が白み始めた。日中と違って、夜と朝は気温が低く、半袖では寒いほど。夜が明け、朝日が昇る瞬間は美しい。ランナーたちにとっても大きな励みになるはずだ。今日も快晴。湿気の少ない避暑地のような王滝村だが、長時間走っているランナーにとっては暑さは大敵。暑さがピークに達する前に、少しでも早くゴールしたいところだ。
 選手たちはひたすらゴールを目指して走る。とその時、逆方向に走る100マイルの赤いゼッケンをつけた選手が。100マイル1周目でぶっぎりの1位だった野坂選手だった。「やはり飛ばし過ぎました。内臓がやられちゃって」と無念のDNF。しかし、その素晴らしい走りに拍手を送りたい。
 ステージ2を終え、フィニッシュ地点の松原スポーツ公園に戻ってきたのは、まず100kmの選手。ずっと1位をキープしていた横内選手が優勝。「速い人がいるから、1周目から飛ばして引き離した」という。2位と1時間弱近くの差をつけた、圧巻の優勝だった。一方、女子100kmで1位に入ったのは、6月に行われた「OSJ 会津磐梯山ウルトラマラソン」100kmの部女子で優勝した加藤志織選手。今回も総合10位と大健闘。100km女子の新星が現れた。「ウルトラマラソンとトレイルランニングの両方の要素を兼ね備えたこのレースが面白くて」と語ってくれた彼女は、派手なパフォーマンスもなく、ひとりしみじみとレースの余韻に浸っていた。
 そして、100マイルのトップで入ってきたのは、前に「歩兵」、後ろに「と」と書かれたタンクトップ姿の志村史雄選手。大学では将棋部だったという志村選手、陸上部でもなく、インドア派だった人でも1位を取れることを身を持って教えてくれた。だからこそ、長距離レースは面白い。女子100マイルトップは、昨年の覇者、冨澤いずみ選手。2連覇を期待されつつも、それを意識することなく、強豪の男子に交じって平常心で走り切った。さらに、どこで何を補給するかなど、綿密なレース展開が功を奏して、総合でも9位に入った。
 午後7時58分、松原スポーツ公園に最後のランナーが戻ってきた。会場を後にする、すでにゴールした選手の車からの声援も聞こえる。こうして2日間にわたる長いレースは終わった。
 大きな事故もなく、無事にレースを終えることができたのは、選手はもちろん、王滝村のみなさん、1~2時間ほどしか仮眠を取らず、動いてくれていたボランティアスタッフやメディカル、大会スタッフの頑張りがあってこそ。レース終了後、片付け始めるスタッフの頭上には、昨日のスタート時と変わらず、満天の星が輝いていた。

取材・文/高橋寿子

【100マイルリザルト】
総合男子 総合女子
総合順位 レース No 氏名 記録 総合順位 レース No 氏名 記録
1 164 志村 史雄 14:55:20 1 2 冨澤 いずみ 17:32:43
2 60 小野寺 祐太 15:28:27 2 58 原 智美 18:21:08
3 167 須賀 洋之 16:13:50 3 63 伊藤 理恵子 20:11:42
4 151 後藤 憲仁 16:14:26 4 59 桐畑 まり子 20:51:27
5 190 永野 隆之 16:32:37 5 250 山本 まゆ 21:19:28
■出走人数161名、完走者数96名(完走率59.6%)

【100kmリザルト】
総合男子 総合女子
総合順位 レース No 氏名 記録 総合順位 レース No 氏名 記録
1 1072 横内 佑太朗 8:12:25 1 3188 加藤 志織 9:52:50
2 3032 大畑 匡孝 9:04:21 2 2081 澤田 由紀子 10:50:05
3 3146 三浦 翔 9:07:40 3 2072 小林 瑠里子 11:12:18
4 1453 近谷 海 9:12:29 4 3222 保坂 康恵 11:48:38
5 1336 神谷 亮輔 9:22:27 5 2127 松島 みどり 11:51:11
■出走人数1084名、完走者数879名(完走率81.0%)

受付




100マイル スタート前~トレイル入口




100km スタート前~スタート




レース




表彰式


Photo/Akihiko Harimoto、No.261、262、264 パワースポーツ